2009.06.16 吉田正幸
アパート日記13
「試みの平行線2」

後天的とは言え、刷り込まれた欧米文化というワンダーランドは少なくとも私にLサイズの幻想を抱かせるには充分でした。海を越えた向こうにはジーザスな日常がクライストしていると。ドラッグ片手にセガールしたかと思えば、ポップなコーンがロールスロイス、プリティーウーマンだと。

東京は中野、サンコート沼袋というアパートで欧米も含む外国の方々と一つ屋根の下に暮らし、テレビの中だけに存在したオーベイが身近な存在になった今、私が抱いていた幻想がかくして問われる時が来ました。

話は前回の最後に戻ります。私はユニットバスの天井にある四角い穴から顔を突き出していました。二階に住む白人達のあの時の「声」を聞くために。
不意に現れた工事施工業者の忘れ物に呆然となり、動揺が収まると私は気づきました。

聞こえる、と。

一階の自室で聞いていた時より、音が、いや気配がはるかにその臨場感を増したのです。匂いすら漂うようなそんな変化だったのです。
それだけではありません。耳を澄ませると「あの声」が聞こえるではありませんか。

ギシ、ギシ、ギシ、はあ、ギシ、ギシ、ギシ、はあ、ギシ…

ベットが軋む音に紛れ、低く漏れる男性の「あの声」。
無理な体勢のまま私の興奮も最高潮を迎えていました。
早く、早く女性の「あの声」が聞きたい。
夢にまで見た「ジーザス!」を。「イエス!イエス!イエス!」を。
そうこうしている内に行為のリズムそして男性の「あの声」はドライブしていきます。

ギシギシギシはあギシギシギシはあギシギシはあギシギシはあギシ…

早く私に「ジーザス!」を。「イエス!イエス!イエス!」を。
もしかしたらその時、私は初めて神に祈っていたのかもしれません。

そしてベットを軋ませる音が軽い騒音レベルにまで達した頃、その時がやってきたのです。
おそらく男性が息を切らせ果てる瞬間、欧米女性は発したのです。小さな何か、吐息的な「はあ」みたいな曖昧でぬらっとしたうすーい、声ともつかぬ、何かを2、3回くらい?おまけみたいにちょっと空気が抜けちゃったみたいな雰囲気の呼吸?そう、呼吸って言った方が相応しいんじゃねえかっつう感じのもやもやっとしたはっきりしない、「あの声」を。

もちろんこれは自分の身の丈も知らず勝手にLサイズどころかXLサイズの幻想を抱いた私の罪です。
しかしそれだけ私が欧米というワンダーランドに小国日本にはないスケールの大きさを期待していたということでもあるのです。
今、私の心には大きな穴がポッカリと開いています。

それでも日々は流れ、今日も私は眠りにつきます。
耳を澄ませて。

追記 続くと思います。